Kちゃんへ
私やっと20年以上も経ってあの時に行った場所がどこだったか分かりました。
あれは次の日がお休みの前日の夜
「ちょっと遠いけど今から行きたいとこあって」
仕事帰りにうちに寄るなりそう言うから実は少し驚いた
対向車のライトに照らされる横顔がなんだかいつもと違っていて
口数も少なくて私はどこに行くのか聞けなかった
着いたときはもう夜もすっかりふけているのに私達のほかにも
カップルが何組もいたから何かあるのか聞きたかったけど
聞けないままに後をついて行った
そこは砂利と草の道でサンダルで来たことを少し後悔しながら
繋がれた手を頼りに歩いていた
「ここだよ」
そう言われて暗闇の中にそびえる鉄塔を見上げた
何組ものカップルとすれ違いながら階段をあがり視界が開けた所に出ると
周囲の金網には無数の錠前がさがっていた
ここは一体どこで、この鍵には何の意味があるのか分からずただ
金網のずっと向こうにみえる夜景を眺めていた
あなたはしばらくあちこちのポケットを何かを探すようにしていたけど
「まさかの忘れたってやつか」
とポツリと呟いて私と一緒に金網の向こうに目をやった
帰り道で寄ったファミレスであの鍵の意味を教えてくれたね
「今度またちゃんと鍵持って行こう」
その約束は守られなかったけどあの夜そこで鍵をかけていても
私達は変わらなかったと思う
でもだからこそ自分自身に私達ふたりの関係を証明するために
あなたは鍵をかけたかったんだと思う
今頃あの時のあなたの気持ちがわかっても
もうあなたに伝えることはできないのに